R18 ダブル罰ゲーム【下】

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3 - 2022/12/24 追加

 長風呂から出てバスマットの上に立つふたり。
 風呂場から出る直前まで身体に付着した水滴は、微量の風をまとう不思議な力によって全て落とされており、髪もほとんど乾いた状態だった。

 顔が真っ赤になったユキはリシュにくっつき、「暑い…」と小声で言った。リシュは浴室場を出て右手にある洗面台の壁のラックに、畳まれた白い大きなタオルを手に取りユキの身体に巻くと、肩に持ち上げるように抱き上げた。ソファーの直ぐ側に置かれてある冷蔵庫を屈みながら片手で開け、ミネラル水とシンプルに書かれた透明の瓶を器用に口で開ける。

 リシュはサイドボードに瓶を置くと、ユキを抱き上げつつ一つ空いた片腕でベッドに枕をふたつ、椅子のように並べてユキを座らせるように置いた。目を半分開いた彼女の額に瓶の底を当てて冷やすと、おぼつかない動きで彼女は手を差し伸べた。瓶を渡すと、口を窄めごくごくと飲み始める。半分まで飲むと、リシュに瓶を渡し、彼は顎を上げ首を伸ばすようにして飲み干した。
 背を向け、空になった瓶をソファーの直ぐ目の前にあるテーブルの上へ置く。

「ありがとう。のぼせそうだった……」
「ちょっと、温まりすぎましたね」

 リシュはベッドに置いてあった替えのインナーを身に付けた後は、着ていた衣類を手に取り、再び着始めた。コートは止めずに着ると、ユキの腰を掛けているベッドのすぐ側に座った。
 ユキは止まっていないタオルが剥がれ落ち、胸と背中が露わになる。
 リシュは愛おしそうに彼女の頬に顔を擦り寄らせ、ほっぺに口を付けた。

「可愛かったですよ」
 ユキの耳元で何度目かわからないくらいの甘い声で、口ずさむ。鼓膜の中が心地良く震えた気がした。

「……えっちなんだから」
「ユキさんこそ。焚き付けるのがお上手で」
 ユキの鼓動が速まる。
 心の中では身体の交わりを強く欲していた。身体は今にも溶けそうなほど快楽を求めていて、どうにかなってしまいそうだったから。風呂場では十分過ぎるほど前戯を楽しんだのにも関わらず、どちらも達していない。それがユキの嫌がることを読んでの行為だとしたら、なんと意地悪な人なのだろうと、嘆息を吐く。触れられた部分が熱っぽく、酷く蝕んで離さなかった。

 ユキは気分にリセットを掛けるように深呼吸をすると、
「わたしも着替えるね」
 と言い、タオルを片手で押さえながら起き上がる。洗面所の直ぐ真下にあるタオル掛けの前に立つと両手で伸ばしながら、タオルをかけた。

 ベッドまで戻るとパンツをはき、クローゼットを開ける。カバンの中に入れていた大量の包帯を無造作に身体に巻きつける。片目は見えている状態まで頭をぐるぐると覆い、背中、胸、腹はところどころ肌が露出している。足と腕はしっかりと巻き付けてあり、擦れても崩れない形の、それっぽいミイラ女と化した。

 カバンの内ポケットの部分からタブレットと、ユキの手に収まる程度の黒いケースを2つ取り出すと、画面を明るくさせ、操作を始める。シンプルな灰とシルバーの市松模様のボード、白と黒の駒の絵が表示され、チェスのゲームのタイトル画面までセットすると、寛ぎの部屋まで移動して、テーブルにケースとタブレットを置く。ベッドの方へ身体を向けると、手を挙げてリシュに声を掛けた。

「さぁ、遊ぼっ!」

 リシュはニコッと微笑んだあと、立ち上がる。肌の色を更に蒼白に変え、爪を黒く伸ばした。口を開くと、八重歯は更に鋭利なものに変わり、どこかのお伽話に出てくるような高貴な吸血鬼を彷彿させる様変わりを見せる。ユキは血の気が引きそうな感覚に襲われると同時に、身体が咲う感覚に落ちた。近寄られただけでも、鼓動が高鳴るのはきっと、何か気のせいだと思い込むようにした。

「罰は【おしりを齧る】のと、【包帯を好きな部位を巻き付ける】で本当に良いんですね?」

 リシュは腰に手を当て、ユキの顔を覗き込むように言う。鋭い爪がギラギラと光を反射させていた。

「ぐぅ……。だって、他に思いつかないしっ」

 リシュはくくっと笑いながら、どっしりとソファーに腰を掛けた。ユキは向かいのソファーに腰を掛け、自分の位置から届く距離の冷蔵庫から水の入った瓶を取り出すと、冷蔵庫にぶら下がっている栓抜きを手に取って開けた。

「ふむ。こ、駒が……。小さい」

 リシュは大きな指でチュートリアル画面を操作し始めていた。黒のポーンを動かすのにプルプルとさせながら四苦八苦している。ユキは申し訳なさそうにしつつも、可笑しくて笑う。
 ユキは両手で黒のケースを開けると、無色透明なメガネを取り出した。

「これを掛けてみてっ」
 ユキはメガネをリシュに渡す。彼はメガネを早速掛けてみると、驚愕した顔を見せた。

「お! お?」
 首を左右に動かしては戻し、また手を動かしては戻しの繰り返しを行う。リシュは見たことのあるものが、まるでそこにあるような素振りをしていた。

「触れる……。おおっ。持てるっ」

 腕を伸ばし、指で摘むような動作をし、引っ張ったり、置く手付きをする。食い入るようにチュートリアルを進めるリシュを目にして、ユキもメガネをかけ始める。

「すごいよね! 目の前にボードと駒が見えるの」

 視界はまるで本物の、チェスボードと、駒がリアルに映し出されていた。伸びる手と、相手の手の距離感は相手のメガネの距離と計算されており、絶妙。タブレット上で指を動かすことなく、距離を詰めずともテーブルの上のサイズに合うチェスが行える。

「学校の友達が作った試作品なんだけど、リシュとふたりで遊べる嬉しいな」

 ユキは少し照れながら、言った。

「ほお。すごいっ。これは……面白いですね」
 チュートリアルを終えて、プレイヤーの選択をする画面に移る。

 先行の白はユキ。
 黒はリシュで、スタートする。

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